《 小 説 》 



意味

いつ出会ったか。
もう僕は覚えていない。
気がついたらあの子は隣に座っていた。
静かな静かな公園のブランコに。
小さな小さな少年は座っていた。

放課後、僕はよくここに来る。
静かな静かな公園に。
どうしてかと聞かれても困る。
意味なんてないから。
僕はいつもここに座る。
静かな静かな公園のブランコに。
するといつも彼は座ってる。
小さな小さな少年が。
言葉を交わすことなんてない。
ただ、しばらくそうしているだけ。
いつも先に帰るのは僕だった。
彼はずっとそこにいる。


「キミ」

ある日。
唐突に彼が口を開いた。
舌ったらずな声ではなく、どこか老齢な声で。

「キミはここで何をしている?」

何を?
何もしていない。
ただ、明日の学校のこととか、将来の事とか考えているだけだ。
いつもと変わらない風景を。
いつもと変わらない毎日を。
いつもと変わらない目で見ているだけ。
もちろんそれが幸せな事だと分かってる。
それさえ手に入れられない人がいるのも知っている。

だけど。
僕には何の意味があるんだろう。
何で僕はここにいるんだろう。

「坊やは何をしているの?」

僕は聞いてみる。

「何もしておらぬよ。ただ流れに身を任せている事意外はな」

初めて彼は僕を見た。
どこか疲れた目を向けて。

「生きる事、抗う事に意味などない」

当然のように彼は言う。
彼の声に在るもの。
それは絶望。
それは渇望。
それは羨望
それは確信。

「キミはどうなのかね?」

僕?
僕は――

「わからない。何をしていいのかも、何をすればいいのかも。・・・何でここにいるのかも」

気がつけば。
僕は彼に話していた。
自分の思いを。
考えを。

「ここにいることに意味などない」

きっぱりと。
彼は僕の悩みを切り裂いた。

「ここにいるからここにいる。ただ生きているから生きている。この連鎖に意味など求めてどうする?」

無意味。
全ては無意味。

「そうだ。物事に意味など存在しない」

そんざい・・・・・・しない?

「私がここにいる事にも、キミと話をしている事にも、意味などない」

「もしキミに意味があるのなら教えてほしい。私の意味を教えてほしい」

「私は何故ここにいる? 何故キミはここにいる?」

彼は僕に問いただす。
僕を、自分を、全ての事を問いただす。

「それがわかれば僕も悩まないよ」

「・・・道理だな」

彼は小さく微笑んだ。
僕が見る、彼の初めての笑顔。
なんて悲しい笑顔なんだろう。

「私は意味を探したい。あるわけがない意味というものを」

「意味を・・・・・・探す?」

「そのようなものがあるのなら、な」

「・・・・・・探してどうするの?」

「どうもしない」

「何もしないのに探してるの?」

「何かをなすために探しているのではない」

「じゃあ――」

どうしてそれを探しているの?

僕は聞けなかった。
彼が立ち上がり、ゆっくりと歩んでいく。

「私は探す。どれほど道を行こうとも。どれほど時を重ねようとも」

「僕にもわかるかな?」

何故僕はこんなことを聞いたんだろう。
それでも僕は聞きたかった。
わからないけど聞きたかった。
彼は歩みを止めない。

「キミにもそれがわかるといい」

「私には分からないがね」




結局彼は何者だったんだろう。
小さな小さな少年は。
あの日を境に姿を消した。
静かな静かな公園に。
僕は今もこうしてる。
彼は今も探しているのだろうか。
彼の意味を。





--------------------------------------------------------

この文章はえいじさんに頂きました。ありがとうございました!

なんでも暗い文章書くのは初体験だそうです。
私は好きですね。この文章。
なんというか、暗いんだけど、遠くには光が見えてるような感じ?
言葉にするのは難しいけど、ただただ暗いだけじゃないところが私的に好みなんです。(笑

やっぱりえいじさんは文才があるなぁ。
ああ、これを「電波な文」とするのはすごくためらわれる。(汗


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送